
石田先生は長年、哲学というアプローチで人間にとって美容や化粧とは何なのかを研究し、2021年からは一般社団法人宇宙美容機構の理事も務めています。これから先、人間が宇宙空間で生活する時代がやってきたときに、美容はどのくらい重要になってくるのでしょうか。
結論からいうと、必要不可欠です。既に始まった宇宙旅行では、宇宙に行くのは一般人。洗顔や洗髪、清拭による入浴は、今の宇宙飛行士のやり方にたくさんの改善を加えなくてはなりません。さらに、卒業旅行の行き先が宇宙、結婚式を行うのが月面となると、無重力で髪が逆立つのはどうでしょうか。宇宙で「映える」髪型やお化粧は地上と異なり、宇宙美容から新たなトレンドが生まれる可能性があります。

短期旅行の次は、宇宙への長期滞在です。宇宙や月面にオフィスや住居が建設され、多くの人が長く滞在します。地球上の生活を「普通」だと思う私たちが宇宙に行くと、閉鎖空間で常に同じメンバーと長期間過ごさないといけないので、心理的につらくなります。健康には食べ物や医療がもちろん必要ですが、髪やヒゲが伸びたら整え、入浴の爽快感を得るような全身洗浄が、心の健康にとても重要になってきます。宇宙は過酷な環境ですから、心身の健康を保つために、美容が地上の何十倍も大事な役割を果たせるのです。
美容というとメイクで装うイメージがありますが、それ以前に、基本的な生活を送るために必要なんですね。
過酷な環境だからこそ、メイクのような「生存に不必要でプラスアルファ」と思われている美容に救われた例がたくさんあります。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争の際、アメリカの支援団体が現地の女性たちに必要な物資を尋ねたら、イヤリングやスカーフ、口紅という答えが返ってきたそうです。日本でも、太平洋戦争時に使われた防空壕からすり減った口紅やおしろいがわずかに残ったコンパクトが発見されたといいます。戦争や災害などの非常時は、自分というものを保つことが難しい。そんなとき、美容は自己を保つ心のよすがになるのです。
2024年の能登半島地震では、災害関連死が直接死より多いそうです。災害時と宇宙は共通点が多数あります。宇宙生活のためにつくられたものは災害時に役立ちますが、宇宙での暮らしを豊かにするものは災害関連死を減らせるかもしれない。災害時も宇宙も、水・食料・寝られる場所など生存条件を満たすものばかりが優先される傾向があります。しかし、心身がボロボロのときは、生きるための最低限だけではまったく足りないんです。美容や音楽や世間話などは「生存に必要ないプラスアルファ」と思われていて、後回しになりがちです。しかし、それらは人間らしい生活ができるか否かを大きく左右し、あるのとないのとでは心理的なクオリティ・オブ・ライフが格段に違います。魂を満たすこと、それが人間らしく生きるために大切で、生存条件だけではここにまったく届きません。
災害時と同じように、宇宙で人間らしく生きるには、文化で心に栄養を与えることが必須で、美容はまさにその要素である、と。
マズローの欲求5段階説というものがあります(アメリカの心理学者、マズローが提唱。低い段階の欲求が満たされることで次の段階に進むという理論)。1番下が生理的欲求、2番目が安全の欲求で、災害支援も宇宙開発も今のところ注力されているのはそこばかりです。「美容は最上段だから避難所や宇宙にはまだ早い」と思われているようですが、美容は最上段ではなく、5段階のピラミッドを支える土台にあると私は考えています。戦時下で生き延びるよすがの例のように、美容は人間を創り支えるものです。

そういう意味では、タカラベルモントが宇宙空間で果たすべき役割は大きいと思いますよ。医療機器はもちろん、エステやヘアケア、ネイルケアもカバーしているので、過酷な宇宙環境でも人間らしく、自分らしく生きるよすがを提供できます。「美容は宇宙においてこそ重要」という認識のもと、引き続き業界を牽引していっていただきたいですね。
美容は宇宙空間で快適に過ごすために必要であること、そして、人間らしく生きるためにも重要であるということ、よく理解できました。石田先生はこれらに加えて、外見を変えることは内面を変える近道だともおっしゃっていますね。
外見は単なる「外面」ではありません。人格形成に直結しているのです。例えば、憧れの人みたいになりたいと思ったら、その人の服装や髪型、言動、生き方を真似するのがいちばんよい方法です。なぜなら、外見がセルフイメージを形成し、セルフイメージがアイデンティティを形成していくからです。内面が磨かれていった結果、外見が輝くのが理想だといいますが、それは一般の人には難しいことで、外見からアプローチしたほうがはるかに早いし、確実です。

外見を創ることは、自分という人間を創るセルフプロデュースなんです。最近のトップアスリートたちは、おしゃれな髪型やメイクを味方にして素晴らしい成果を出しています。昔は「見た目を気にする暇があったら練習しろ」なんて言われがちでしたが、今のアスリートたちは自己を創る外見の力を知って活用しています。
たしかに、昔と比べると個性的なルックスのアスリートが増えましたね。タカラベルモントのパーパスに「私たちタカラベルモントは、自分らしく生きる人生こそが、美しい人生だと考える。」という言葉がありますが、彼らはまさに美しい人生とは何なのかを全身で体現しているようにも感じられます。
そうですね。そういう心をもって何事にも当たることが、宇宙での新たな美の発見と文化の創造につながるのではないでしょうか。