Interview インタビュー

#01 未来のファッションのカギは個性の表現と心地よさ デザイナー/コシノジュンコ

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「宇宙的な考え」が美を生む これからの時代、正解はひとつではない

今回の展示は、「2050年の宇宙時代に未来のヘルスケアサロンがかなえる美とは何か」を問いかける内容となっています。
コシノさんが考える未来の美とはどのようなものでしょうか。

未来というのは永遠につかめないものです。とはいえ、現在の延長線上にあるもの。私たちは、今の自分たちの考え方を把握したうえで、それをどうやって壊して組み立ててプラスアルファしていくか、という実験を繰り返しているのだと思います。

宇宙に関しても、ロケットや月の世界といった非日常のものを想像しがちだけれど、現在の私たちの拠点はあくまでも地球。ならば、「宇宙的な考えをもちながら地球上で面白いことをする」というのが、これからの時代に求められるあり方ではないでしょうか。

今回の万博のユニフォームをデッサン

では、「宇宙的な考え」とは何なのかというと、宇宙とは無限で永遠であり、つまり、どんな考え方をしてもいいということ。正解はひとつではない、ということです。今回の2025年大阪・関西万博のタカラベルモントの展示コンセプトに「美の固定概念に問いをたて、多面的な視点で真の美を見つめなおす」とありましたが、そういった姿勢が未来の美を生み出すことにもつながっていくのではないかと思います。

生まれもった個性こそ美しい そこに肩書きや経歴は必要ない

考え方も人それぞれでいいし、美の価値観も違っていい、ということですね。

これからの時代の美しさとは、一人ひとりが自分の感性やセンスをどう表現するか。年齢や性別といった固定観念を取り払って、生まれもった自然な個性を活かすことが美しさにつながっていくのではないでしょうか。どの国に生まれて、どの学校に行って、という肩書きや経歴を全部外したら、本人そのものの個性しかないし、そこに「女らしく」とか「こういう立場だから」とか、そんな言葉はなくていいんです。

だから、履歴書なんてなくしたほうがいいと思います。私、初めてお会いした人に、どこで生まれたのかとか、どこの学校の出身だとか、聞いたことないですよ。だって、本質は話せばわかるし、態度や仕事ぶりに出るじゃないですか。その人の過去よりも、今、目の前にいるその人が大切なんです。

東京・青山のブティックにて

そういえば昔、ニューヨークに私のブティックがあった頃、現地でファッションショーをやるためのモデルのオーディションを無制限で実施したことがありました。身長や年齢の制限も条件も一切なし。面白かったですよ。ローラースケートでオーディション会場に来た人がいたから、ショーにもローラースケートで出てもらったりして。1990年代の話なので、スーパーモデルの全盛期です。美の概念が決まりきった時代に、それを壊したかったのかもしれません。

私自身、長く「ファッションデザイナー」と呼ばれてきましたが、今は「ファッション」という言葉を取って「デザイナー」と名乗っています。ファッションって本来は「世の中の流行」という意味の言葉なのに、いつのまにかファッション=洋服、として定着してしまったんですよね。ならば、肩書きから「ファッション」を外して「デザイナー」としたほうが、可能性が無限に広がるんじゃないかと思って。事実、これまでにも花火やクレーン車など、ファッション以外のものもたくさんデザインしていますしね。

服においては心地よさが重要 万博のユニフォームデザインの背景にあるもの

肩書きや経歴に左右されない時代は可能性に満ちている感じがします。その半面、自分をしっかり持っていないと、何を選んだらいいのかわからなくなる人も出てくるかもしれません。

自由っていうのは、基準や目安がないので難しいんですよ。制限があったほうがわかりやすい。ただ、洋服に関しては、完全に自由ということはないんです。いろいろなことが進化しても、人間というものの形、つまり肉体は変わらないので、身体を無視することなく活かすことが第一条件になります。例えば、この先も新たな素材がどんどん開発されていくかもしれないけれど、服に使うなら、肌に触れたときに心地よいものでなくてはならない。重くて着続けられないものや、鉄板のように冷たいものではダメなんです。

1970年大阪万博では、斬新なパンツルックが注目を集めた

アジア初、日本で最初の1970年大阪万博の時代を振り返ると、世界的な人気モデルのツイギーの影響で、日本でもミニスカートブームが起きていました。ですから、万博のユニフォームのデザインもミニスカートが多かった。それに対して、タカラベルモントのために私がデザインしたのは、黄色の長袖のニットに同色のパンツを合わせ、その上にミニスカートを重ねるというもの。このスタイルには、これからの時代は女性もどんどん社会に出て活躍するようになるのだから、服もおしゃれでなおかつ動きやすいものでなくては、という意図がありました。当時としては斬新なデザインでしたが、その背景には心地よさという要素もきちんと落とし込まれていたんです。

一方、今回の2025年大阪・関西万博のタカラベルモントのユニフォームは、ブースのデザインに合わせて白とシルバーを基調に未来感を演出。ジャケットは光沢感のある生地を立体的に組み合わせています。インパクトのあるデザインですが、素材が軽くてハリがあり、実際に着用してみるとあまりの快適さに驚くほど。加えて、年齢や性別にかかわらずスタイリッシュに着こなせることも大きなポイントです。ボーダーレスであることも、今の時代にふさわしいデザインのあり方ではないかなと思っています。

個性を表現すること、そして、心地よくあること。コシノさんのお話から、未来の美のヒントが見えてきました。

どんな時代であっても、主役は人間ですから。人間にとって何が成功かって、自分以外の人に感銘を受けてもらうこと。誰かが喜んでくれたり、誰かの役に立てたりするのであれば、大成功ではないでしょうか。だから、人を尊重することがすべてだと思います。

今回のタカラベルモントの展示も未来の美がテーマではあるけれど、ブースを訪れるのは未来人でも宇宙人でもなく、今を生きている人たち。たくさんの人に見ていただいて、何かを感じていただくことができたら、それだけでもう素晴らしいことです。できれば、子どもたちにもたくさん来ていただきたいですね。小さい頃に見たものって一生忘れないし、将来につながりますから。

取材・文/志村香織
撮影/松浦幸之介(ポインター)

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